「ネジル」
背を向けているネジルを引き留める為、チギルは腕を掴んだ。
二次性徴を既に終えたと言えどさりとて大きくないチギルの手で、人差し指と中指が届くほどネジルの腕はまだ細い。
見た目の幼さがチギルの心配を煽る。
「どこに行く。ワイに何も言わないで」
「どこにも……行こうとなんかしてないのだ」
明らかな拒絶の言葉にチギルは頭に血が上るのがわかった。
チギルはネジルの“兄”として存在し、守る為に生きてきた。
世界の終幕を退けたと言えど、ネジルは未だチギルの庇護を受けるべきである。
それを、今、否定した。
どこにも行くな。見えるところ、手の届く範囲にいて守られていてくれ。でなければ兄の役目をどう果たせばいい? ワイが兄でいられないのであれば、お前も弟ではない。
「お前はワイの弟じゃない」
気がつけばネジルの体はチギルの足元へと倒れていた。だらりと投げ打った四肢のあまりの力のなさに気を失っているのかと思ったが、指先が地を掻いた。
「どうしてそんなこというの?」
両腕をついて上体を起こしたネジルはチギルを見上げる。
両眼ともにたっぷりと今にも決壊しそうなほどに涙を溜め、口内が切れたのであろう、口の端から少量血が漏れ出ていた。
――チギルがさきほど、殴ったからだ。
チギルはそのネジルの視線を受けているとパチパチの視界の端が弾けるような、あるいはチリチリと頭の神経の一部が燃えるような心地がした。
高揚感があった。
(夢オチ)
ちゃんと描くならマンガで描くと思う。
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